「夏とレモンとオーバーレイ」~ハイスペ彼女はなぜ、自分の葬儀の弔辞を新人声優に頼んだのか – 8th FEB.

「夏とレモンとオーバーレイ」~ハイスペ彼女はなぜ、自分の葬儀の弔辞を新人声優に頼んだのか

大長編もいいのですが、一冊完結が気持ちよく終わると、読後の爽快感があります。小説でも長編と短編がありますが、私はどちらかといえば短編が好きです。村上春樹も短編のほうにセンスがあると思うし(長編はセンスを示す場ではないという理由もある)、夏目漱石よりは芥川龍之介派です。だいたいにおいて、すきま時間で作品がひとつ読み切れるという贅沢がたまりません。書くほうの作家としては大変なのですが。

さて、今回紹介する「夏とレモンとオーバーレイ」は一冊完結で読み切る作品。2人の女性の夏物語。1人目は売れない底辺声優。それこそ電気代も止まりそうで食費を100円に抑えるような日々を暮らしている彼女の元に、美人で大企業に勤めるハイスペ女子からの依頼が舞い込みます。

そう、2人目は誰もがうらやむような生活をしているはずなのに、なぜかそこに満足していないどころか不思議な闇を抱えている人物として対比的に登場します。まったく反対側にいる底辺声優が依頼されたのは高額の報酬と、自分の葬儀で遺書を読んで欲しい、という依頼。しかもその内容を考えるために一緒に食事や遊びにつきあってほしいというのです。

夏が終わったら死を選ぶと笑顔でいうハイスペ彼女に翻弄されながらも、少しずつ心の距離を詰めていく底辺女子との落差が、エンディングを予感させてゾクゾクします。仕事がないときは生配信でわずかな投げ銭に頼って暮らす彼女が、ハイスペ女子と出かけると一杯1000円するようなフルーツジュースを飲み、数日分の生活費になるようなお値段のランチを食べて、くらくらとします。

あまり細かいところに触れると興ざめですから詳細は省きますが一冊を読み終えるところにやってくる最終話。納得のいくエンディングが読者にはちゃんと用意されつつ、「うわ、この『あとの話』がもう少し読みたい!」と思わせるスパッとした最後のコマで一冊が終わります。

エンディングがハッピーなものか、あえて厳しいものとなるかは読者の楽しみに残しておきますが、どちらにしても納得のいく終わり方だったことはここで伝えておきたいと思います。

やっぱり、1冊で完結することをねらった作品はいいですね。もちろん、一冊に6話くらい盛り込まれる短編集も最高ですが。