SNSで他の方が、この作品を紹介していた。その方は現実の西荻を舞台としたドラマを期待していたのは拍子抜けだったようだが、「なるほど、ファンタジー入ってるのか」と事前知識を得て、むしろ読んでみたくなった。普通に西荻の話だったら読まなかったかもしれないので、口コミはいろんな意味でありがたい。
絵柄は拍子を見ただけで好きなやつと分かる。しかし作家は存じ上げなかった。後書きによれば10年ぶりの2冊目の短編集ということである。そう言われると既刊の表紙にはどこか見覚えがあった。そのときは手に取らなかったものが、今手に取ることになるのは不思議なものだ。これだから短編集は好きだ。
少し架空の世界と入り交じった西荻窪を軸にしつつ、ヒューマンドラマが描かれる連作短編集だ。週末に中央線が止まらなくなり、徐々にアクセスが悪くなり「西荻に住んでいた人以外は西荻にたどりつけない世界線」なんて、もう設定聞いただけで素敵じゃないか。
かといって絶対に西荻にたどりつけないというわけでもない。別の連作短編では、普通にエリア外の人がギャラリー展を観に西荻に行ったりする(こちらはドッペルゲンガーの自分に遭遇することになるので、もちろん「普通」ではない)。そういうゆるさもまたいい。
個人的には西荻は、ちょっと離れた友人が住んでいて、善福寺の前回の洪水のとき、部屋で寝ていて起きたら床上浸水していた(!)というエピソードが忘れられない。貴重なコレクションもぷかぷかと浮いていたらしい。西荻を舞台としたファンタジーが、どこか私にしっくりきたのは、彼のせいもあるかもしれない。
あなたも何か「西荻的」な都会の不思議が好きなら、読んでみてほしい。
