2巻完結が心地よい掌編~「映写室のわかばさん」 趣味としてやっているコミックレビューだが、「鬼滅の刃」とか「ONE PIECE」のような超メジャー作品は取り上げていない(日常生活のコラムとして鬼滅はずいぶんネタにしたが)。個人的には「次かその次あたりにヒットを出しそうな若手作家」とか「2~3巻でまとまって読み応えもある作品」を採り上げるほうに興味があるからだ。 もちろん大ヒットに成長することもあるが、むしろそうでないことも多い。「映写室のわかばさん」はどちらかというと「2巻でこじんまりと完結することがむしろ爽やか」という作品だろう。 View this post on Instagram A post shared by Syunsuke Yamasaki (@yam_syun) このラインより上のエリアが無料で表示されます。 本作品は「古い映画館の美人で寡黙な映写技師さんに憧れる少年」という話。「ニューシネマパラダイス」的なやつだ。 田舎の映画館。高校生の主人公は映画好きだが、ある日裏方で働く映写技師のわかばさんの姿に憧れる。寡黙に職人仕事をさばき、汗が落ちることも厭わない。 古い映画館にはいろんな日常があり、いろんな客がいる。そして少年はわかばさんに憧れつつ、徐々に自分の進路を考え始める。 残念ながらフィルムを回す映画は絶滅に瀕している。ほとんどの映画はデジタル配信されるようになっているからだ。今年最大のヒットとなった「鬼滅の刃 無限列車編」などもシネコンで30分おきにいろんなスクリーンで上映できるのは、フィルムを抱えてあちこち移動しているからではない。 (昔、バイトで映写技師をやっていた方が、裏方さんがフィルムを抱えて右往左往している心配をツイートして、バズっていた。フィルムがひとつでも欠けたらあれだけの上映は回らないけれど大丈夫だろうか、なんて心配しながら映画を見るのはちょっとほっこりする話だ)。 神楽坂にも名画座がひとつある。そこでは全国の映画館が閉館になるたび、映写機をもらい受けては保存管理しているそうだ(マンガにも閉館した映画館から機材を譲り受ける話がある)。 フィルムもおそらく逸失を避けるため集めているのではないかと思う。入り口の看板を見ていると、なかなか渋いラインナップが上映されていて、それを好む愛好家がソーシャルディスタンスを意識しながら行列をなしている。 今はコロナ禍にあるので、劇場は満席にできないのだろうが、名画座としてはそれもちょうどいいかもしれない。 個人的には、チェゲバラの映画を、バネが飛び出しそうなくらい席も傷んでいる小規模の映画館で3人くらいで見たことが記憶に残っている。彼の死の迎え方の悲しさとも相まって、それが「映画を見た!」という記憶に残っている。映画館という舞台もまた映画を見る一部なのだ。 マンガに戻るが、あまりストーリーを押しつけることなく2巻分のエピソードが「映画館」を語っていた。館主とわかばさんが恋沙汰になるとか、主人公的少年が告白するとかそういうことはなく、淡々と話は終わる(最後にちょっとだけイベントがあるが)。でもそれがちょうどいいバランスだと思う。 本作は映画館の中の人が原作部分に協力をしているらしい。漫画家さんとしては次回は次のテーマを選ぶのだろうが、どんなテーマでやってくるか、楽しみである。 2巻は一気に読むに心地よい。そして難しいことは考えず楽しく読後感が残る。 オススメです。 試し読み https://magcomi.com/episode/10834108156766386889Amazon紙書籍購入 https://□ama□/2VSDOvgKindle版電子書籍購入 https://□ama□/3lY8UMmヤマサキさんのコミック蔵書リスト https://booklog.jp/users/yamsyun 関連 投稿ナビゲーション 一編の現代小説のような趣~「夢の端々」ページをめくるごと、息が詰まる悦び~「君だけが光」