一編の現代小説のような趣~「夢の端々」 – 8th FEB.

一編の現代小説のような趣~「夢の端々」

このブックレビューの枠も100回目に近づいていて、多くの作家さんを採り上げてきた。基本的には作者はひとり一度の登場としようかと思っていたのだが、やっぱりこの作品は良かったので取り上げてみる。

基本ストーリーは、「ふたりの女の一生」ということだろうか。ひとりは結婚をして平凡な子育て人生を歩んだ女性、ひとりはシングルライフを貫き、小説を書いたり自分の会社を経営した女性。しかしふたりには、高校のとき心中騒ぎを起こしたという「共通点」があった……

冒頭から、ふたりは老婆として登場するのが衝撃的だ。しかも痴呆症になりかかっている話がでてきたりする。さらに片方は久しぶりに会ったすぐ後に交通事故で亡くなる。

そこから1話ごとに時代を入れ替えながら、ふたりの一生が少しずつ描かれる。女学生時代。社会人になったばかりの結婚前の時代。結婚直前の小旅行。結婚後離ればなれになった時間と邂逅。

おそらく意図的に時代をシャッフルしているせいか、読みながら読者の頭は混乱し、混乱しながら整理をしていく。整理をしていくごとに過去が明らかになってぞくぞくする感覚を覚える。

読後感は不思議なものだ。もう少しエピソードが読みたかった2巻はちょっと足りなかったかなと思う一方で、これ以上は描かず、少し不明な部分を残しつつもここで終わらせる方がいいとも思う。

お話としてはおおむねの時代の経過、流れは示されている。並べ替えれば出会ってふたりがそれぞれの人生をどう歩んだかは分かる。そして残された彼女の命も尽きようとしていることが示唆されつつ話は終わる。

不満はないが、もうちょっとこの世界観を読んでみたかったなあと思わせる。不足があるというよりは、世界に惹き付けられたということなのだろう。


読後感をもう少し言葉にしてみると、なんとなく、現代小説家の短編あるいは中編小説を読み終えたような感じがした。

それはなかなか、マンガでありそうでない感想かもしれない。小説はコミカライズされることが多いし、人気マンガが小説になることもある。しかし、「小説のように思えるマンガ」というのは意外にないものだ。

最近、作家性を強く持ちつつ漫画家となった人たちが増えているような気がする。そういう人たちには、いわゆる連載マンガのセオリーを無視して小説のような叙情性を持ちつつ、それをマンガで描くというスキルが備わっているのかもしれない。

そして、それを受け入れる編集部と読者の対応力も育っているのだろう。だとすれば、そういうマンガをまた読みたいものだと思う。

また次作が楽しみになってきた。

オススメです。

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