読むのも書くのも、創作は楽しく、そして狂おしいのだ~「私のジャンルに「神」がいます」 – 8th FEB.

読むのも書くのも、創作は楽しく、そして狂おしいのだ~「私のジャンルに「神」がいます」

かつて、私は創作小説を書いていた。もう20年以上前の話だ。

今は紙の同人誌ではなく、ネットでの公開が中心である。書き上げた作品を広く見てもらうことは驚くほど簡単で低コストになった。ファンとの交流も(悪意の投げつけも)ネットで簡単にできるようになった。

しかし、「書く人」と「読む人」がいるという構図は変わらない。そしてあなたの好きなジャンルに「神」というべき二次創作作家がいたとしたらどうなるか。

今回のマンガ、あまりにも熱量がすごい。できるだけその熱量を下げずにオススメをしてみたい。


基本的には、ひとりの天才的なセンスを持つ二次創作作家さんと、その作品を追いかけるファン(あるいはライバル)のエピソードを積み重ねる連作短編だ。

あるファンは、振り向いて欲しい(SNSでフォローバックしてほしい)と思うがあまりに同じジャンルの作品を精魂詰めて書き続けるようになる。しかし途中から愛憎半ばしてきて、むしろ縁を絶ちきろうかとさえ思い始める。しかし離れがたく逡巡する。

あるファンは、大昔の別ペンネームの過去作品にハマる。またそのきっかけも、サブスクで過去の名作アニメを一気読みしたことからスタートするのが今どきの設定としておもしろい。そして同じ作家の「今」をたどろうとひたすらに過疎化したSNSやブログ、閉鎖されたたくさんのホームページをたどり始める。ようやく憧れの作家に会えた彼女は感極まる。

あるファンは、「神」がジャンルを変更(違った作品で二次創作を始める)したことに憤ったりする。そしてその愛憎半ばする感情を自分の創作に向けたり、つい友人の感情をぶつけてしまい、活動を停止しようかと悩む。

学生が主人公のこともあれば、社会人が出てくることもある。ただファンとして追う者もあれば、自らも作家となって追いかける者もある。どちらもときどき、狂おしさをみせる。

好きすぎておかしくなる、というのはよく分かる。好きだから遠ざけてしまい、時間が経った後にその感情を振り返れば馬鹿げたものだと思うこともあるが、でもそのときの瞬間には切実な感情なのだ。

この作品、ネットで評判を知って、翌日に新宿で買ったのだが、そのまま地下鉄の車内で読み始めたら、ガツンときた。このままだと絶対に乗り過ごすと思ってあわてて読むのをやめたくらいだ。

幸いに連作短編の形式なので、そこでなんとか区切りをつけたが次のエピソードを喫茶店で読んでは泣きそうになってまたあわてて止めたりした。深夜に原稿を書きつつ、エピソードをひとつずつ静かな部屋で読んだりした。いずれも熱量のあるエピソードだった。

――というか、自分の過去も思い返してしまったりすると、読んでいてまた感情移入してしまった。私が大学生だったのは1991年から95年の春までだったが、当時の小説書きはもう大変だった。

ワープロ専用機の機能は脆弱だった。画面は20文字×20行で高性能だった。数十ページも書けば別ファイルにしなければ収まらないほどファイルサイズには限界があった。これで長編を書くなどほとんど苦行である(でも原稿用紙で書くより100倍マシだった)。

当時のワープロ専用機は持ち運ぶには重すぎ、スマホやタブレットのように持ち運んでささっと書くこともできなかった。というかタッチパネルもカラー液晶も存在しなかった。今考えれば考えるほど貧弱な創作環境だ。

それでも自分の世界を広げていくのはおもしろかった。ベースの世界観を借りつつ、オリジナルのキャラクターや設定を遊ばせ、それを読者にも喜んでもらうのは楽しかったものだ。

大きな変化はやはり、インターネットの有無だろう。私が書き始めの頃、そんな便利なものはなかった。いきなり世界に発信し、ダイレクトに意見や批判を受ける仕組みは今世紀に入ってからのものだ(かろうじてシンプルなホームページはあったが)。

あの頃と今が違うとすれば、批判をダイレクトに受けることで、これはネットの時代のしんどさだと思う。本作品ではそうした苦しさも描きつつ、ネットでつながることで得られる魅力もまた描いている(実は「神」扱いされている作家さんが、妬みをぶつけられ最初のペンネームを捨てるに至った葛藤がエピローグで描かれていたりする)。

マンガの中に登場するのは「神」扱いされる同人作家さんだが、そのマンガを書く漫画家さんのセンスもなかなかすごい(影の狂言回しとして神作家の友人「おけけパワー中島」という登場人物が出てくるのだが、だいたいこのネームを思いつく時点で作者のセンスが凄すぎる)。

この作者に、できれば感情を揺さぶるタイプの新しいマンガを書いていただき、また書店でお目にかかりたいものだ。絵柄ではなく、話への期待で買う。絶対に買う。

というわけで、すごいマンガでした。

オススメです。


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