ヒットの後の次回作は本当に難しい~「てのひら創世記」 – 8th FEB.

ヒットの後の次回作は本当に難しい~「てのひら創世記」

「ひとりぼっちの世界攻略」というマンガがある。ジュブナイルの雰囲気をもつ絵柄がとても好きで、話も好きすぎて、あまりにも好きすぎて、完結してから一気読みしたくなって、読むのをやめてガマンしてしまったくらい、好きな作家と作品だ。

そんな作者の新作が出たのでとりあげてみたい。作者にとっては前作と違う世界を描こうと力を入れているから、次回作の1巻は興味深い。そこからどう世界が広がるかまだ分からないところが多いのだけれど、それだけの魅力を持つ作品になっているだろうか。


小学生向けの文庫シリーズ(といっても新書サイズになっていることが多い)には、ジュブナイル系のイラストが採用される。子どもに親しみやすい絵柄でありながら、お色気は控えめに設定されるのが普通だ。中高生になるとライトノベルに手を出すことになるが、小学生はまだその手前で安心して読めるお話と絵柄でストーリーを楽しんで欲しいものだ。

さて、本作の作者、絵柄はそんな文庫シリーズの挿画を担当しそうな印象だ。むしろ現代ものファンタジーをダイナミックに描くとはあまりぴんとこないかもしれない。しかし「ひとりぼっちの世界攻略」はそんな不思議な組み合わせを見事に描ききった。

今回の新作も、持ち前の絵柄を活かしつつ、ボーイミーツガールなストーリーをまたスタートしている。今度は剣術使いの女子中学生と、けんかっ早い金髪ハーフの男子中学生のあいだに、謎の「赤ちゃん」が誕生したところから話が始まる。

1巻すべてをつかってもまだまだ布石を打っている感じなので、正直話の広がりはどこまであるのかまだ見えない。前作を考えるとまだまだ世界の設定は広がりそうな気がする。

一方で、15冊を数えた中編を完結させたあとの「次回作」には難しさがある。作者自身も同様のヒットを育てたいという気負いが生じるし、編集もそれを望む。同時に作者の中では前作とは違うことをしたいという意欲も生まれるのも当然だ。そして読者は必ずしもそれを求めるとも限らない。

さらにいえば、連載である以上、継続して一定の支持を得つつ、話をふくらませていかなければならないというのも悩みだろう。大きく展開させたければ伏線はたくさん張りたいが、思わず連載が短くなればその努力も泡となる。バランスとりは本当に難しい。

ま、実際のところはあんまり考えすぎても仕方がない、というのが結論になるのだが、技術と経験が増すほどに「自然体で書く」というのも難しくなるという要素もある。

……こう書くと、私が新作に期待していないように誤解されてしまうかもだが、正直にいえばむしろ期待をしていて、その期待が叶うかどうかのほうに心配があるのである。

できればこのお話も、徐々に盛り上がっていって、10巻以上の展開になることを期待したい。でもそうはならないのかもしれない。

3巻が出る頃にはどっちに転ぶかもはっきりしてくるだろう。過去にレビューした作品も3巻で完結となったものが少なくない(2巻で終わったものもある)。

数年後の自分に、今感じているもやもやとした気持ちはすっきり晴れるのかどうか、教えてほしいと思うくらいである。

そんな新作のプロローグ。オススメです。

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