書店員の推しが新しいマンガと出会うきっかけになる~「果ての星通信」 – 8th FEB.

書店員の推しが新しいマンガと出会うきっかけになる~「果ての星通信」

マンガやアニメはSFと相性がいい。何せ現実にはまだ実現していない世界を描くのに、作者の頭の中の世界だけでイメージが作れたなら、それを読者に示すことができるからだ。

小説ももちろんSFを描く装置としてはいい。しかし文字だけで読み取りにくいところを描くのはやはりマンガのほうに分がある。

今回紹介の本作、まったくノーチェックだったところを書店員が「推し」てくれたことにより、出会いのきっかけが得られた。そしてこんなSFと出会えたことがうれしかった、そんな話をしてみたい。

新しいマンガと出会うにはとにかくそのきっかけを増やすしかない。一番有力なのは書店に並んだ作品を目に留めることだろう。

しかし、新作でかつ新人の作品に触れるチャンスはあまり多くない。「面陳」つまり表紙の面が見えるように陳列されるスペースは限られているため、新作が出るたび取り替えられて、すぐに奥に移されてしまう。

新人の場合などはそもそも数部くらいしか入荷されないこともあるし、そもそも知名度がないがゆえに、面陳されることすらないケースもままある。

今回紹介する「果ての星通信」、書店に出かけていったとき、たまたま出会った。しかもそろそろ3巻が発売されようか、というタイミングで、1巻と2巻を面陳していたのだ。

場所はコミック売り場の一番奥まったところ。ベストセラーを置く面陳エリアではない。左右をみれば数週間前あるいは先月発売されたような準新作を並べているようなエリアだった。

そこにあえて、発行がかなり古い2冊を並べているというのは書店員のささやかな「推し」なのだろう。どの本をどれくらい入荷させてどこに並べるかは最後、書店員の裁量によるところが大きい。

たまたま「あと1冊買えば、90分無料の駐車券がもらえるな」という目線で書架を巡っていたのも、もしかしたらよかったのかもしれない。目当ての本だけを見繕ってレジに向かっていたら、せっかくの書店員の熱意に出会うこともなかったかもしれない。

実店舗の書店はやはりそういう出会いがおもしろいし、これからもそういう役割は続いていくのだろう。

さて、中身の話をしよう。

意気投合した相手(姿は描写されない)とロシアを離れて世界旅行に出ようとしていた主人公はいきなり異星に連れて行かれてしまう。本当なら、渡すつもりだった指輪だけを手に。

地球より遠く離れた異星で、実は10年前にその約束を交わしていたこと(雷に打たれて記憶を失ったことがある)、そして10年間はここで働くようにと求められる。

戻る方法も見当たらないが高度文明の世界であることはすぐわかった。他の星の宇宙人と一緒に「星を生み出す仕事」をしつつ、脱出の方法を模索する……

プロローグをまとめればこんな感じ。まだ読んだのは1巻だけだから、今後の展開が楽しみになるプロローグといったところだが、映画にあるようなハードなSF(ブレードランナーとかエイリアンとか)ではなく、ファンタジックなSFなので読みやすい。

ファンタジックなSFを作るのはやはりマンガとアニメの得意とするところだが、女性向けマンガの絵柄の角度でSFを描き込むのがおもしろい。

異形の宇宙人の子どもが社会科見学で博物館(もちろん異星の)に来ている描写など、さらりと描くが、全員違う形の宇宙人であり、でもセリフは人間の小学生とほとんど同じだったりする。そういう違和感と日常との接合にぞくっとする。それがまた、おもしろい。

戦争はしない。しかし、SF的な深い世界に潜る楽しさがある。そしてそこはかとない怖さもある。

さて、彼の世界はどう広がっていくのか。本当に10年をそこで過ごす選択をするのか、それよりも早く地球に戻ることができるのか。

続刊が楽しみな作品である。オススメです。


……さて、レビューも書いたし3巻の発売日を再確認しよう、と思ったら、実は3巻は4月に発売済みであった。

書架には3巻はなかったので、私より先に手に取った方が、1~3巻のまとめ買いをしてしまったのだろう。手に取るのが遅れてしまったのは残念だが、それでも1巻を買うきっかけを作ってくれた書店員には感謝である。


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