短編はぶつっと終わるから切なさが際立つのだ~「一生好きってゆったじゃん」 – 8th FEB.

短編はぶつっと終わるから切なさが際立つのだ~「一生好きってゆったじゃん」

横槍メンゴという作家がいる。代表作は「クズの本懐」「レトルトパウチ!」だ。今は「推しの子」という半分ネタのようなタイトルでありつつ、独自色のあるマンガを連載している(あえて今、「○○の子」とか大胆すぎる!)

しかし、今回はあえて同氏の短編集を薦めてみたいと思う。この作者のセンスが存分に発揮されているし、初読の人に作家を紹介するのには短編集が最適だと思う。

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短編のおもしろさを、村上春樹がエッセイで語っていたことがある。長編はしっかり話の筋立てを考えてそれを順番に書き込んでいくようなところがあるが、短編の場合、ワンアイデアをもとにいきなり書き進めて紙幅が埋まったらすぱっと終わらせてしまってもいいし、むしろその鮮やかさがあったほうがおもしろい、というような話だった。

書庫兼第2事務所に寄るヒマがなく、エッセイそのものを確認できないのが残念だが(たぶん「村上朝日堂 はいほー!」だったかと思う)、だいたいそんな話だったように記憶している。村上春樹も短編にセンスのある作家だ。

時間をかけて連載するマンガのストーリーの場合、最初に書いた設定を後から覆すことができないので、なおさら大変だ。書き下ろし小説の場合、途中で冒頭に戻って何度も手直ししつつ、クオリティを高めていくことができるが、連載マンガが「実は2話目のあの設定、変更します」というわけにはいかない。

長編になるほど、基礎を固めて、徐々に高層階を建てていくし、途中から反古にはできなくなって苦労する。

そのせいかもしれないが、漫画家にも短編を楽しんで書く人がいる。少女漫画家でも、長編コミックの途中に、数巻ごとに短編が1話挿入されることがあるが、本来のストーリーから離れてリラックスして書いている雰囲気が伝わってくる。ファンも、本編ストーリーと異なるエピソードを楽しむ。

編集者も、本編の展開に煮詰まった作家さんの気分転換をさせることに狙いがあって短編を時折書かせるのではないか。うまくいけば、それが次の連載につながることもあるし、そうならなくても読者サービスになり、作者のリフレッシュになる。

私は大ヒットを飛ばす直前の作家の短編集が大好きだ。短編にも必死さと才能の萌芽と少しの無邪気さが混じっているのがおもしろい。そして、短編集を気に入った作家は、ずっとファンになることができる。

今回紹介する、短編集「一生好きってゆったじゃん」は一読すると作者のセンスのすごさをびしびし感じていただけるはずだ。

現代的なリアリティとその切なさややるせなさをざっくり切り取るところは魅力的だ。先生と不毛な恋愛(性交渉込み)をしている女子高生、ジュニアアイドル(いわゆる着エロ系)としてメンタルをすり減らしている女の子と幼なじみとの関係性など、心がざわつく題材を取り上げて、さくっとストーリーを作る。

気持ちよく展開することもあれば、ざわざわしたまま解決をさせない終わりになることもある。現実は必ずしもうまくいくわけじゃない、という冷たさも短編なら描けるし、スパッと終わっても小気味が良い。

作者の絵柄も、少女マンガでも青年誌マンガでもない軽やかな位置にあって、少女のリアリティある設定を描くことを違和感なく可能にしている。

――私は一時期、短編集か2巻くらいで完結する小編のお気に入りマンガばかりを並べている棚を作っていたことがある。その後大ヒットを飛ばした作家もあれば、才能が時代に合致しなかったか伸び悩んで消えていった作家もあるが、数十年にわたって手に取れるところに起き続けたいと思える作品を生み出した作家と作品がいくつかある。

この短編集がそうなるかは分からないが、少なくともいえることは、この1冊を私は売らないであろう、ということだ。そういう出会いがあるのも、短編集の喜びだろう。

オススメです。

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