「ゴールデンカムイ」一気読み~電子書籍200話、20巻一気読みで眼精疲労と腱鞘炎の先に手に入れたもの、失ったもの アイヌの隠された金塊を、日露戦争帰りの第七師団の反逆者たちとと、実は監獄に幽閉されて生きていた土方歳三と、アイヌの少女が奪い合うという設定の「ゴールデンカムイ」というマンガがある。 基本設定を聞いただけで「何それおもしろそう!」という感じがするだろう。大人気なのは知っていた。アニメ化が第二期までされ、10月からは第三期がスタートするほどだ。しかし、たまたま縁がなくてここまで読まずにいた。これが学生時代だったら友人から薦められて読んでいたはずだ(実際、読後にメッセを送ったら当然読んでいて熱く語られた)。 ある日、新期アニメ放映記念ということで、ヤンジャンアプリ(連載はヤングジャンプである)で「200話無料!」というイベントが行われていることに気がついて一気読みを試みることにした。未読の方は今ならまだ間に合うのでチャレンジをオススメしたい。 以前も横山光輝「三国志」一気読みとか、「BLACK LAGOON」一気読みなどをしてきたが、アプリでのコミック一気読みにはリスクとリターンがある。 View this post on Instagram A post shared by Syunsuke Yamasaki (@yam_syun) リスクの最たるものは、肉体的損傷である。 このラインより上のエリアが無料で表示されます。 何せ「眼精疲労」が生じる。明度をどれくらいに設定するかにもよるがマンガの場合、背景の「白」が灰色になるのは悲しいのであまり暗くできない。ざっくり1話25ページの200話とすれば5000ページ(実際には広告等もあるので6000ページくらいになるか…)の光を目に入れることになる。これはキツい。 ことによっては「肩こりや腰痛」にまで被害が及ぶこともある。私はiPadで読んだのだが持ち方を油断していたらしく、右手の腱鞘炎まで発症してしまった。物書きが腱鞘炎は職業的にまずいので、これは大失敗だ。そもそも、原稿を書いているとき腱鞘炎にならないのに、マンガの一気読みで腱鞘炎とはちょっと恥ずかしい。 しかし、それだけのリスクを払った甲斐はあった。 本作品はとてつもなくおもしろい。青年誌ならではの外連味(ケレン味)もしっかりあって、かつ現代的に絵柄はすっきりとしつつ、話はしっかり構成されている。クオリティの高さに感心させられる。 特に素晴らしいのはアイヌの風俗(食生活やお祈りなど)をしっかり描きつつ、また自然描写が美しいことだ。青年誌といえばバイオレンスな絵柄の印象だが、ここにはそうした乱雑さはまったくない。 今まで読まなかったのはもったいなかったな、と後悔すると同時に、クライマックスが近づいているところで、一気読みする満足感も楽しめた。ここから先は新刊コミックの出るたび追いかけていこうと心に決めた。 こう考えてみると、一気読みによって得られるリターンは「チャンスがなかった作品に触れる機会」となることだろう。 私はバイオレンス系の描写が濃いマンガはあまりコレクションしないことにしているので、この作品になかなか手が出なかった(自然が美しかろうと、人と人が殺し合いをする描写も青年誌なので含まれている)。一気読みの公開が、そういうハードルを引き下げてくれたことになる。 現実としてすでに20巻を超えている作品を1巻から買い求めることはあまりない。しかし、私はこの作品に触れたことで、いきなり続刊(22巻以降)を購入した。結果としては20巻無料であっても出版社と作者も元が取れたことになる。もちろんアプリの広告収入もあるので完全な無料公開ではない。 ビジネスモデルとして考えても、長編となった人気作の前半部分を無料公開する手法はきちんと成立していると思う。私のような未読の者も広告収入の元となり、かつその一部は新規顧客として続刊を買う側に参入してくれる。 すでにコレクション済みのファンにとっても、「アプリでもう一度一気読みするか」となり広告収入が入る。途中で読むのを止めていた「元ファン」も再燃してくれるかもしれない。 コミックアプリはなかなか奥が深いモデルだ。紙が売れない時代とよくいうが、スマホやタブレットを用いた新しいリーチに試行錯誤はちゃんと進んでいるのだ。 個人的には広告収入以外のアプローチはないものか、と思うのだが、サブスク契約によるコミックアプリの月額課金はまだ課題がありそうだ。Kindle Unlimitedは突き抜けた印象だが、そこが突破できればまた違う世界が広がってくるだろう。 あと、もっと目に優しい画面になってくれればありがたいのだが。私が10年後に20巻一気読みをするときには、体力を酷使しなくてもコミックを楽しめるとありがたい。 関連 投稿ナビゲーション ダーウィンより前にガラパゴス島に上陸した男の物語~「ダンピアのおいしい冒険」短編はぶつっと終わるから切なさが際立つのだ~「一生好きってゆったじゃん」