ダーウィンより前にガラパゴス島に上陸した男の物語~「ダンピアのおいしい冒険」 – 8th FEB.

ダーウィンより前にガラパゴス島に上陸した男の物語~「ダンピアのおいしい冒険」

ガラパゴス島といえば、「ガラケー」のように「取り残された/時代遅れ」という意味で使われる言葉だが、ダーウィンが見つけたのはむしろ進化のプロセスを検証する大きなポジティブなものだった。

しかし、ダーウィンよりも先に、ガラパゴス島に上陸して、リクガメやイグアナを食べていたイギリス人がいた、なんていうと驚く人もあるかもしれない。

今日紹介する「ダンピアのおいしい冒険」はそんな人物を描いたマンガだ。

当時、イギリスやスペインの艦船は文字通り世界の海を股にかけていた。貿易戦争を行うための艦隊の戦端が南米の海では繰り広げられ、また掠奪船が「生死」をギャンブルにかけつつ、お宝を狙って出没していた。

好奇心旺盛なダンピアはそうした船で何年も航海した記録をもとにイギリスでベストセラーを生み出す。それはダーウィンの進化論を導いたり、ロビンソンクルーソーの着想を呼んだり、西洋に大きな刺激をもたらしたという(正確にはロビンソンクルーソーの元ネタは最初の著作ではないらしいが)。

そしてダンピアは人生を通じ世界周遊を3度も成し遂げることになる。彼の生涯を描くのがこのコミックだ。

彼は単なる学者というわけでもない。乗っていたのは私掠船であり、そこで役割を果たすということは略奪行為にも加担していたということだからだ。そういう説明も行われる一方で、船の中ではちょっとした共和制がしかれているような話も描かれる。信頼を得られていない船長がクーデターで後退されたり、一般的には奴隷と見なされる船員にも契約や信義が存在していたりする。そんなことも紹介されつつ彼らの船旅が描かれる。

そしてもちろん、彼らの「食」は大事な問題だ。新鮮な野菜不足による壊血病にもなるし、サメやらイグアナなどの未食の材料を食べようとする四苦八苦、なんとか陸にたどり着いたとき食する肉の美味さなども描かれているのがおもしろい。タイトルにつく「おいしい冒険」も存分に描かれている。

でも全体としては当時の歴史的背景を踏まえつつ、大航海時代初期のわくわく感を伝えようとしており、こちらもページをめくる手が止められず、あっという間に読みふけってしまった。

「おいしい冒険」とつくのでてっきり大航海時代グルメマンガかと思っていたら、それも含めつつ博物学のような世界の楽しさを描く素晴らしい作品だった。おかげでダンピアについて検索して知見を得ることもできたしね。

歴史について知的好奇心を持っている人なら、たぶん楽しめること間違いない。そんな1冊である。

ところで、マトグロッソというWEBサイトにこのマンガは連載されているのだが、運営主体であるイースト・プレス社は意欲的な作品をコミック掲載している。作家の発掘力にはいつも感心している。

今では「ダンジョン飯」で大ヒットを飛ばしている九井諒子氏も、実はイースト・プレスで短編集を出している。星新一のようなテイストが素晴らしいと注目していたらまさかこんな大ヒットにつながるとは意外だった。

いつか本欄で紹介したいと考えているカシワイという作家さんがいて、この方も今ここで連載中だ。以前本欄でも紹介した「さめない街の喫茶店」もこのサイトの連載だったことにも今気がついた。

WEBコミックは紙の雑誌と比べて尖った作品を掲載しやすいことは間違いない。そして、全方位に受ける作品でなくても大ヒットはありうる。マトグロッソが異能の作家の実験場として機能するなら、これはアリだと思う。ぜひこれからも意欲的な掲載を続けてもらいたいところだ。

本作、オススメです。

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