1980年代ラブなふたりの2010年代恋愛?~「スローモーションをもう一度」 – 8th FEB.

1980年代ラブなふたりの2010年代恋愛?~「スローモーションをもう一度」

好きなマンガの完結を読むのが惜しくなって、最後の数巻、止めてしまうことがある。実はこのマンガも2年前に完結しているのだが、ようやくエンディングを目撃した。よかったなーと思ったので、あえて今、ご紹介したい。

タイトルはおそらく「スローモーション(1982)」(中森明菜)、「Lucky Chanceをもう一度(1985)」(C-C-B)の組み合わせだろう。1980年代のヒットやガジェットをなぜか愛する現代の高校生男女の物語だ。

男子はクラスで陽キャにとどまろうとしつつも違和感を感じている。現代の流行には息苦しさを感じていてむしろ松田聖子やチェッカーズのほうに落ち着きを感じている。

女子は陰キャタイプ。失踪した父の好きだったライブラリーに囲まれて、1980年代のファッションを愛する。髪型は松田聖子カットで、名前はなんと「薬師丸知世」。もちろん1980年代に欠かせない存在だった、薬師丸ひろ子と原田知世から拝借している。

「1980年代」がふたりを少しずつ近づけていくのだが、純愛路線というか1980年代ドラマ風というかふたりはなかなかくっつかない。しかしそれがまた、いい。

1980年代のノリは徹底している。ストーリー内のアイテムに登場するだけではなく、タイトルロゴや帯のキャッチフレーズ、各話のタイトルなどにも反映されている。各話のタイトルは全部が当時のヒットソングから用いている(はず)。

あと折り返し部分などに、1980年代の文具にあるようなファンシーキャラが描かれていたり芸が細かい。「ファンシー」という概念は今では通用しないが、当時の学生が避けて通れないアイテムのひとつだった。

私は1972年生まれなので、チェッカーズを小学校高学年あたりで楽しみ、松田聖子と中森明菜はベテランになりつつあるあたりで聞き込んだ世代だ。そういう意味では1980年代を「当時」としても体感している。

たとえば、青春歌年鑑というコンピレーションアルバムでは
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%92%E6%98%A5%E6%AD%8C%E5%B9%B4%E9%91%91
1984年、85年、86年あたりがビンゴになっているけれど、ほとんどが口ずさめるし、仕事が落ち着かないときなどはこれをランダム再生して原稿に集中することは今でもある。

当時を知る人はその記憶を頼りに本作を楽しみ、当時を知らない人は「何それおもしろい」的に恋愛マンガを楽しむことができる。しかもそれを週刊青年誌で続けたのがえらかった、と思う。

なかなか付き合い始めに至らない(全7巻の6巻でようやくつきあう)、スローモーションな展開なのに、週刊誌連載ならではの疾走感もある、というのが本作の良かったところだ。これが月刊誌だったらじっくり描けただろうが、一気に展開する爽快感は損なわれただろう。

読み終えてみると、週刊誌連載だけに人気が落ち着いてしまったところでエンディングになったかな、という感覚もある。しかしきちんとエンディングへはたどりつくだけの時間は用意されたようで、心地よい7巻完結となっているのがうれしい。編集者にも愛された話だったのだろう。

今述べたように、本作は7巻で完結している。そして作者はガンダムのオリジナルマンガにチャレンジしている。ちょっと意外な展開で驚いた。

1年戦争のジオン側で活躍したとあるモビルスーツ乗りの話が先月発売されている。かつてはサッカーの名プレーヤーとして鳴らした彼がなぜ軍人として戦うのか、そんな話を1980年代とラブコメを描いた作者がどう料理するのかもまた楽しみだ。

「スローモーションをもう一度」あなたがもし、未読だったら一気読みに向いている。

オススメです。

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