青春のせつなさは絵柄で描くかストーリーで描くか~「よふかしのうた」 – 8th FEB.

青春のせつなさは絵柄で描くかストーリーで描くか~「よふかしのうた」

「だがしかし」という駄菓子マンガの傑作があったが、きれいにエンディングを迎えた。駄菓子をネタにしたギャグマンガを装いつつも、実は地方に暮らす男の子の青春と成長の物語でもあって、ほのかな恋愛物語でもあった。

その作者が次にチャレンジしているのは「不眠症の男の子と吸血鬼の夜のお話」だ。そして今作も優れたストーリー展開を示している。

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毎回駄菓子をネタに取り上げ、そこから笑いを引き出すという、ギャグマンガのセンスが「だがしかし」の面白さを占めていたように一般的には思われているだろう。しかし実のところ青春の叙情性を描くところのほうに巧みさがあった。そして、今作でもそれがうまく描かれている。

基本ストーリーは簡単だ。不眠症をきっかけに不登校になった主人公の中2男子。彼がこっそり家を出て出会ったのは吸血鬼の女の子。そして彼女に血を吸わせる契約を結ぶ。彼女を好きになることができたら、自分も吸血鬼にしてくれるというのだが、彼には「好き」という感情が分からなかった……。

前作は駄菓子というネタがからみつつギャグも織り交ぜていた。それと比べると、ギャグをメインに押し出してはいない。さまよう中2の心理を描きつつ、吸血鬼に少しずつ惹かれていくステップを描いている。

こういうと、商業性がないように思うが、この作者のすごいところはしっかり商業性としっかり併存しているところだろう。今作も最初の2冊を主人公とひとりの吸血鬼との交流に割いていたが、3巻に来て一気に話を動かし、いろんなタイプの美人吸血鬼が7人に増えてきた。

かといって、ベタなハーレム恋愛マンガに陥るわけではなく、また魅了の能力に長けている吸血鬼も抱える悩みや影を描いているのがおもしろい。

そして、少し細めのやや不安定さも感じさせる描画がまたこの話によくフィットしていて読者を惹き付ける。考えてみると「だがしかし」でも太線がかっちりした絵柄でギャグマンガをやるところが王道だろうが、彼のこの細い線画がむしろ魅力であった。

線だけでなく、人物の体型もスレンダーなキャラが多く、それもまた不安定な登場人物の心理を投影しているように見える。ま、こっちのほうは作者の好みは巨乳ではなく貧乳派ということかもしれないが、それでもその好みがきちんと作品にマッチしていることは大事だ。

少し固めにスタートした1巻。手探りで関係を深めた2巻を乗り越え、3巻から一気に世界を広げてきたこのマンガ、しばらくは(人気のある限り)展開を続けていくことができそうだ。

すでに名のある作家で、本作もすでに売れていることを思うと、本レビューが取り上げなくてもいいのだが、4月刊行分の3巻を一気に読んでレビューを書きたくなってしまったという次第。

ちょっと悩みがあふれている今だからこそ、読んでみる価値がある。オススメである。


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