政治家はむしろマンガに向いている題材なのだ~「角栄に花束を」 – 8th FEB.

政治家はむしろマンガに向いている題材なのだ~「角栄に花束を」

戦後すぐの政治家はひとりひとりが列伝を書けるほど、キャラが立っている。三国志がマンガ化に向いている理由はそのキャラ立ちにあるすれば、戦後政治家がマンガになじまないわけがない。しかも田中角栄とくればなおさらだ。今回とりあげるのはそんな1冊だ。

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ゴルゴ13で知られるさいとうたかを氏が、小説吉田学校をコミカライズしている(いくつかバージョンがあるようだが、私の手元にあるのは講談社+α文庫「歴史劇画・大宰相」全10巻)。これがまたよくできていて、個人的にはもう小説は持たなくてもいいやと思っているくらいだ。表情や息づかい、感情が描かれるのはやはりマンガの強みだと思う。

惜しむらくは「小説吉田学校」および「小説永田町の争闘」をなぞっているが、原作者の死去により中曽根内閣の誕生あたりで終わっているところだ。でもそれも、昭和の歩みとしてはちょうどいい完結といえるかもしれない。

さて、今回紹介する「角栄に花束を」は、もちろん田中角栄を取り上げたコミックということになる。作者の大和田秀樹氏といえば「疾風の勇人」で池田勇人氏を追いかけた作品がすばらしくおもしろかった。諸事情あったのか、池田総理誕生前に作品が終わってしまっているのは実に惜しいと思っていた。

当然ながら、「疾風の勇人」には田中角栄もチラチラ出てくる。というか政治闘争が始まると、役人出身である池田には手に負えず、田中角栄の存在感が出てくるのだ。

今回はあえて、15歳で三国峠を越えて東京に出てきたところから、田中角栄をなぞろうとしている。政治家になる前だ。実業家として第二次世界大戦前を生きてきた田中角栄の姿はなかなかお目にかかれない。なぜ、新潟の地元を熟知しているのか、政治家になる前の彼の実業が影響しているところもさらりと描かれている。

そして、第2巻では出征する田中角栄が見た世界を描こうとしているようだ。田中角栄を描いた作品は、多くが政治家になってからであって、従軍する姿をビジュアル化したものはほとんどなかったのではないだろうか。

前作の面白さを知る人には無条件で薦められる。未読だった方は下記リンクをたどって第一話の試し読みをしていただきたい。テイストがあなたの好みに合うかはすぐ分かるはずだ。

大和田秀樹の描く戦後政治家はいかにもマンガテイストなのがむしろいいと思っている。感情豊かな様はさいとうたかを版を超えるし、笑えるのもいい。一方で、さいとうたかを的リアリティはその分抑えている。

ところで、田中角栄と神楽坂芸者にはちょっとした「縁」がある。目白御殿(後の角栄邸)と永田町のちょうど中間にあった神楽坂も、もしかしたら描かれるかもしれないと期待している。ちょっとだけ、神楽坂芸者の美しさに憧れる伏線が描かれているので、今後の流れが楽しみだ。

できれば、総理大臣になって逮捕されるまで作品を続けて欲しい。逮捕されたらいきなり終了してもいいから、今度はぜひ。

オススメである。

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