言葉は力だ。そして言葉で私たちはつながるのだ。「キャッチャー・イン・ザ・ライム」 – 8th FEB.

言葉は力だ。そして言葉で私たちはつながるのだ。「キャッチャー・イン・ザ・ライム」

タイトルはずばり「キャッチャー・イン・ザ・ライ」からのもじりだ。しかしこれはうまい本歌取りだと思う。ライム、つまりラップバトルをテーマにした青春マンガということをタイトルが強力に示してくれている。ちょっと古いがこの作品を取り上げてみたい。

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親からのDVを受ける貧困家庭の女子。

お金持ちの子だが本当の友だちがいなかった女子。

引っ込み思案で人と喋るのが苦手な女子。

中学は引きこもりで女子校でリセットを目指すトランスジェンダー女子(元男子)……。

それぞれが人生の闇や悩みを抱えて高校で出会う。そしてラップバトルをきっかけにそれぞれの闇や悩みと向き合い、一歩乗り越えていく。そこには友情があり、青春がある。

できすぎとみるのはたやすい。しかし高校生の出会いや「世界の発見」というのはえてしてそういうものだし、キラキラ光り輝いているものだ。

それぞれのキャラクターを2巻かけて描いていくのだが、まず学校で見せた「表の悩み」が、次のエピソードに移るごとに「より深い悩み」を描かれていく。そしてラップと友情を通じて、ひとつその壁を乗り越えていく。高校生だからそれは完全な解決にはならないが、ちょっと先へ進む。

いつも明るい表情をしている人が闇がないわけではない。むしろ闇を隠したいが為に明るい表情をしているのかもしれない。

あまりネタバレをしたくはないのだが、ひとりひとりの人生の闇と向き合うのはつらい作業だ。読者もそれを受け止めるにはそれなりのメンタルを必要とする。しかし向き合うだけの価値はある。

自分はちょっと読書の手を休め、気持ちを休め、でもそうするとまた続きが読みたくなる、という繰り返しで2巻を一気に読み終えた。気持ちの良い読後感だった。

作者の絵はまだデビューしたての若さがある線だが、それがむしろ青春を駆け抜ける2巻もののコミックに勢いを与えている。そして2巻で完結したこともまた気持ちよく青春の疾走感を感じさせる仕上がりになっている。終わり方はしっかりしているので、安心してあなたに読書をオススメできる。打ち切られたというようなひどい切られ方ではまったくない。

作者は背川昇氏。本作がデビューのようで、「海辺のキュー」という新作は1巻がちょっと前に出たばかりだ。漫画家は編集者と出版社が育てていく要素もある。本作は小学館だが、原石を見いだしたからには、しっかり育てて欲しいところだ。

オススメである。

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