モノクロの世界がふとしたきっかけでカラフルに変わる瞬間~「スーパーカブ」 – 8th FEB.

モノクロの世界がふとしたきっかけでカラフルに変わる瞬間~「スーパーカブ」

スーパーカブ。世界での累計生産台数は1億台を超えている世界最多の輸送機器である。田舎では高校生の「最初の足」としても親しまれている。今回紹介するコミックはそんなスーパーカブと出会った、ある高校生のお話。

両親もいない。友人もいない。趣味もない。そんな女子高生がいた。彼女が高校の登校のためにスーパーカブを手に入れるところからストーリーは始まる。

カブを手に入れたことで、彼女の世界は淡々とした繰り返しから変わり始める。あっさりとした絵柄がそれを丁寧になぞっていく。

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コミック版を担当している蟹丹氏は前作に注目していて、手に取ったのだが、今回はライトノベルの原作つきでチャレンジしている。原作となる小説の挿絵も、ほんわかとしているちょっと古めの絵柄だが、どちらもその絵柄がストーリーのゆったりとした感じに合っている。

個人的な話だが、会社を辞めて、ひとりになった時期がある。独立して最初のまとまった仕事が終わったあと、中古車を買った。10年ものの三菱ミニカだ。しかもたった30万円だった。でもその30万円で大きく世界が変わった。

窓も手回しで開け閉めするような古い車だったが、移動できる範囲や場所が劇的に変わった。ヒマな昼間、のんびり渋滞に混じって千駄ヶ谷のプールに出かけて泳いできたり、深夜に走り出して奥多摩湖で早朝に日の出をみたり。しんどいときに人とのつながりを再編して、自分の世界を広げていく。そうした数カ月の中心に一台の車があった。

だから、本作の主人公の気持ちが少し分かるような気がする。同じカブ乗りの女の子と友だちになったり、友人が少しずつ増える。そしてカブが彼女の動ける世界を広げて、ぐっと世の中が広くて楽しいものにみえてくる。

人生には、世界がモノクロになる時期と、世界がカラフルになる時期がある。そしてその間にはちょっとしたきっかけがある。人によってはオンラインゲームのコミュニケーションかもしれない。人によっては旅行かもしれない。別の人にとっては誰かとの一生の出会いの始まりかもしれない。

彼女にとっては、それが中古のスーパーカブを手に入れることだった。たぶん、モノクロの世界だったものが、徐々に色鮮やかな世界に変わって見えてきたはずだ。

レビューの最初に「両親もいない」といったが、実は主人公の彼女、父とは死別しており、母が彼女をおいて失踪するところからコミックの幕は上がる。奨学金の手続きをするところが最初のシーンなのだ。そして母の失踪についても無感動に受け止めている表情が第一話で印象的だ。

それだけに、カブを軸に友人が生まれて時折笑顔を見せるようになる姿は、モノクロのマンガを読んでいても、カラフルに感じられる。

どうやら本作、アニメ化も決まったらしい。この機に一気読みしてみてはいかがだろうか。オススメである。

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