東京が米露に分断統治されたif世界で彼女はどう生きるか~「国境のエミーリャ」 – 8th FEB.

東京が米露に分断統治されたif世界で彼女はどう生きるか~「国境のエミーリャ」

鉄道系のマンガを書かせれば天下一品。味のある作品を次々著してきた池田邦彦氏の新作はまさかの「仮想戦後TOKYO」もの。しかしこれがおもしろい。ぜひ紹介したい。


池田邦彦氏といえば鉄道漫画の旗手(と帯にも書かれている)だ。「山手線ものがたり」「エンジニール」など鉄道を舞台にしたものが多かった。「シャーロッキアン」のような人情ものも上手い。

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しかし、その池田氏が新作として、第二次世界大戦後のifものを描いてくるとは思わなかった。舞台は戦後の東京。しかしロシアとアメリカが日本を分割統治しており、しかも東京も分割されているという設定だ。

京橋やお茶の水あたりは境界線となっているようで、聖橋は東西が向かい合っていて、渡橋は禁止されている。また川や水路の多くも東西国境となっていて、泳いで渡ると国境警備に銃殺されることもある。

そんな世界で、ロシア側に暮らすある女の子が主人公。彼女は昼間は上野駅(十月革命駅となっている)の人民食堂のウエイトレスをしているが、西へ亡命を希望する個人を助ける「脱出請負人」の裏の顔を持っている。

彼女は西のエージェントと連携を取りつつ、亡命を手助けするのだが、当然ながら共産圏であるエリアには諜報部もあるので亡命を邪魔したりネットワークを一網打尽にしようという輩もあらわれる。冒険活劇の始まりだ。

池田氏ならではの設定もうまく盛り込まれている。西への亡命の連絡に荒川鉄橋渡河中は列車の管制区域がちょうど切り替わるところで、そこで電車車掌が列車無線で西の船に通信を行う、なんてシーンが出てきたりもする。1巻後半ではちょっとしたスパイ情報戦になるがそこでも鉄道ネタがキーとなってくる。

東西ベルリンと東西ドイツのイメージを、うまく東京に置き換えつつ、ストーリーが展開するのはとてもおもしろい。新橋に母が勤めに出ていたら、東川に取り残された子どもがいて、叔父に虐待されているのを亡命させる、なんてストーリーには不思議なリアリティが伴っている。

どうやら西側の東京は栄えていて、東側の東京はまだ廃墟も多く、食料事情も満足ではないらしいが、それも東西冷戦のイメージを伝えている。

今の時代には、米ソの冷戦対立のようなわかりやすいドラマ(そしておおむね、ソ連のやり方のほうがダメだったという構図もわかりやすい)が失われてしまった。その分、このifマンガがおもしろく伝わってくる。

彼の絵柄は萌えるわけでもなく、とても上手いわけではないが、情緒に訴える話にはとても合っている。それがまたこのマンガでもうまく機能しているようだ。

さて、ストーリーはわくわくさせる形で始まったばかりだ。2巻では彼女の素性を暴こうとする秘密警察も出てくるし、また別の亡命の話も転がってくるようだ。実に楽しみな「if戦後」ストーリーだ。

池田邦彦氏の新境地がますます楽しみである。できればアニメ化まで行ってくれないだろうか。

オススメである。

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