九龍城は今も私たちを惹き付けてやまない~「九龍ジェネリックロマンス」 – 8th FEB.

九龍城は今も私たちを惹き付けてやまない~「九龍ジェネリックロマンス」

「恋は雨上がりのように」というマンガがある。アニメ化もされている。本作はその作者の新作である。これがなかなかよかったので紹介してみたい。

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新作の舞台に選んだのは九龍城砦。今は跡形もなくなったが、かつて混沌の象徴のように語られた高層マンションの密集地帯だ。マンションといっても日本の高層マンションではない。日本なら団地のイメージに近いが、廊下は暗く、汚れ、ときにはもっと妖艶だ。「九龍城?まったく知らない」という人はちょっと画像検索でもしていただきたい。たぶん数十分は戻ってこれないだけの魅力があるはずだ。

といっても、本作品に登場するのは文字通りリアルの九龍城砦というよりは、少しSFな世界観のようだ。九龍城は残りつつ、近未来のような小道具も登場してきたりするので、そのあたりは曖昧にしている。政治体制もどうなっているのかはまだ明確ではない。

主人公はそんな九龍城砦の物件を取り扱う不動産屋に務める女の子だ。そして同じ不動産で働くぶっきらぼうな男性、ふたりの人間模様を眺めていく形で、ストーリーはゆっくりと動き出す。

九龍の新しい魅力を知ったり、お互いの一面を理解し合ったり、徐々に人間関係が近づきはじめ、好意を意識しつつある、そんなゆるやかに動き始めた恋愛模様だったが、1巻ラストでぞくっとする大転換がやってくる。

煙草と西瓜はけっこう合う、なんてことをネタにのんびりとした大人の恋愛が、ファンタジックな舞台で描かれるのかと思い始めていたところだっただけに、ガツンと殴られたようなインパクトがある演出だった。

「がっこうぐらし」というマンガがある。学校内の萌えクラブ活動マンガと思わせていたら、実は閉じ込められた環境でゾンビと戦っているホラー展開だという演出が1巻の最後にやってくる。このときもぞくぞくきたが、何かそれに似た感じだ。

連載をしているときはこの「コミックの区切り」は分からない。リスト形式で「第○話」とだけ書かれている電子コミックアプリもこういう区切りは感じにくい。
演出が示唆するところは2巻以降に委ねられている。時空がゆがんでいるのか記憶喪失なのか、あるいはもっと狙っているものがあるのか。俄然、次の展開が気になってきた。

急展開ののちにコミックは読み終えることになったので、ページを閉じたあとにいろいろ考えさせられることになった。しかし、その余韻は楽しい。

やはり「コミック」として区切りがある楽しみを堪能できるのはいい。とてもいい気分だ。

オススメである。

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