柔らく優しい絵柄は厳しく戦争の一面をえぐり取る~「戦争は女の顔をしていない」 – 8th FEB.

柔らく優しい絵柄は厳しく戦争の一面をえぐり取る~「戦争は女の顔をしていない」

小梅けいと氏といえば「狼と香辛料」というファンタジーライトノベルをコミカライズしたことで有名だろう。萌えるやわらかい絵柄が人気がある。

その氏が挑んだのは「戦争は女の顔をしていない」のコミカライズだ。これは女性ジャーナリストが何百人もの「戦争に参加した女性」のインタビューを行った書籍をベースとしたもの。

戦争は男性だけがやるものではない。男性と同じく兵として参加した女性もあれば、衛生兵や洗濯兵のような形で参加した女性もいる。鉄道技師として参加する場合もある。

狙撃兵として毎日12時間は地面に這いつくばってドイツ兵を撃ち続けた女性。体は地面の温度と同じく冷える。友人の女性狙撃兵はある日、命を失う。ちょっとしたお洒落で赤いマフラーをしていたがゆえに、雪景色の中、視認されてしまったのだ。

生理になろうと行軍を止めることを許されなかった女性。爆撃を受けたとき、彼女はその場に伏せるより、数百メートル先にある川に飛び込むことを選んだ。そこが安全だからではない。川で体を洗い流すことのほうを望んだからだ。

毎日、軍服の手洗いをひたすら続ける女性も前線にいた。爪は剥げ、脱腸してもなお洗濯を止めるわけにはいかない。戦争は汚れた服を常に生み出し続けるからだ。

……読めば読むほどそこにかかれているのは厳しい戦場のリアリティだ。ノンフィクションの活字を読むのもいい。しかしその骨は折れる。そして覚悟がいる。しかしそれがコミックという媒体を介することでより簡単に手にすることができるとしたらどうだろう。

私は子どもの頃、「日本の歴史」という全20巻(毎月1冊刊行)というマンガを読んだ。これが歴史好きになるきっかけだったことは間違いない。概略をつかむことができること、流れを早く捉えることができること、何度も読み返せること、それらが自分の血肉となったと思う。学研の学習マンガも大好きだった。

本書を学習マンガというにはためらう。ここに描かれているのはむしろもっとざらっとした肌触りがあるからだ。しかし歴史をもう一度知るためのひとつの方法となり得ることは間違いない。

例えばそれが、「萌え」とカテゴライズされる絵柄だろうとロシアの生活や軍隊の生き様はリアリティをもって描かれている。小梅けいと氏の丹念にかき集めた同時代の再現力を、監修に参加した速水螺旋人氏がさらに高めてくれたのだろうと推察する。

途中、読み進めるのを止めたい(書かれていることが辛いので)という気持ちと、続けて読んでしまいたいという誘惑とのあいだで、一気にページをめくり続けた。見終わってしばらく放心する。それもコミック好きの楽しみであり、世界観は少し広がっていく。

内容のインパクトにしばし打ちのめされ、少し気持ちを取り戻してからレビューを書いた。表紙を見返したら「1」とある。続刊の可能性があるようだ。2巻がもし出たらまた読もう。

これはオススメである。

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