アフタヌーン作家の不思議世界観に引き込まれる愉しさ~「大蜘蛛ちゃんフラッシュバック」 – 8th FEB.

アフタヌーン作家の不思議世界観に引き込まれる愉しさ~「大蜘蛛ちゃんフラッシュバック」

講談社の青年向け月刊誌に「アフタヌーン」というのがある。週刊の「モーニング」と並んでいるネーミングだが、この雑誌が輩出してきた個性作家群といったらものすごいものがある。

そんな中から今回は植芝理一氏の作品を取り上げたい。

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アフタヌーンには四季賞という新人賞があって、これが週刊少年ジャンプのような単純明快な世界でもなく、青年誌ごりごりのモーニングで書くというわけでもない、ちょっと独特な世界観の人が賞を取っている。

「無限の住人」の沙村広明氏、後に「蒼天航路」で大ヒットするGONTA(王欣太)氏、「げんしけん」で有名な木尾士目氏、受賞を機にサラリーマンをやめ「AIの遺伝子」を著す山田胡瓜氏などなど。冬目景氏もそうだ。

個人的には「ヨコハマ買い出し紀行」の芦奈野ひとし氏、「ラブロマ」のとよ田みのる氏、そして今回取り上げる植芝理一氏(彼は四季賞出身ではないが、アフタヌーンで育った作家である)が、いかにもアフタヌーンらしいと思う作家さんだ。

植芝理一氏は「ディスコミュニケーション」という作品とそこから派生した形の「夢使い」は、日常に近い画風に神秘主義的な世界観をミックスした不思議なワールドを展開して、これがとても魅力的だった。

転じて「謎の彼女X」では普通すぎる高校生カップルの決して普通とはいえない関係を描いた。というか「好きな彼女の唾液を毎日なめさせてもらわないと(たぶん)死ぬ」という設定を、エロくしないで10巻書くのだからすごい。しかもふたりは将来結ばれることが1巻で示唆されておきながら最後の最後までキスもせずに終わっちゃう青春マンガとか、今どきやっちゃうのがすごい!

今回の「大蜘蛛ちゃんフラッシュバック」では、なんと「お母さんにドキドキする高校生男子」というネタを持ってきた。これもすごい。

しかしそれもエロではなく、上手に料理するのがおもしろい。主人公は父親に先立たれて母子で育ってきたという設定。母はマイナーな漫画家(連載中の作品名は「未確認彼女X」ということで、自作のパロディとなっている)。なぜか主人公には「父と母の高校時代のやりとり」が時々フラッシュバックするようになる。

フラッシュバックするのは亡くなった父さんの記憶。父さんの視点から再現される母さんの姿。高校時代の父さんと母さんの初々しい会話や表情を走馬灯のように追体験するたび、自分の母親にちょっとドキッとしてしまうという仕掛けだ。

当初は「母にドキドキする高校生男子」という構図だけだったものが、徐々に自分のクラスメイトと自分、という構図が重なり始めており、これまたういういしくておもしろい。

彼の作品はちょっとおかしな設定や世界観が魅力で、でもそれを掘り下げていくのがうまいので、ついつい引き込まれていく。最新刊でも淡々と楽しませてもらった……なんて書くと褒めていないようだが、にこにこしながら幸せ気分で読めるのがいいのだ。

植芝理一氏の作品はどこをどうひっくり返しても一冊ごとに100万部出ることはないだろう。でも私はとっても好きだし、そういう人が絶対に何万人もいるはずだ、と思わせる。そこに魅力がある。

下記の試し読みをたどっていただいて、波長が合いそうだなあと思ったら、お試しに一冊いかがでしょうか。直接お会いしたとき「あ、私も植芝理一好きです」と言っていただける人はたぶん友達になれる人だと思うので、ぜひこっそりとおっしゃっていただきたい。

植芝理一好き、というのはなかなか大声で言い出しにくいので、ここでこっそりオススメをしたい。オススメです。

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