その女の子は30年経とうとずっと小学生のまま世の中を優しく見つめ続けている~新作シリーズ「Papa Told Me」を読む~ ある程度少女マンガを読んでいた人なら「Papa Told Me」はご存じだろう。ドラマ化もされているし、最初のシリーズは27巻まで発刊されている。 基本的な構図は、腰まで伸びる髪が印象的な元気で賢い女の子を主人公に、作家さんしているお父さん(お母さんは若くして亡くなってシングルファーザー世帯)、キャリアウーマンだが独身の叔母さん(お父さんの妹)、女性編集者、友人のちょっとチャラい作家さん、街の商店街の面々などと織りなす人間模様、というところ。(↑正直いって、こういう説明はこのマンガの本質ではないのだけれど、未読の人への説明としてはこう書くしかないのだ) 絵柄はやわらかくほわっとした心地よさなのに、世相をサクッと切り抜きつつストーリーに織り込むのが巧みな作品だ。最初のシリーズだったら、「学校のいじめに立ち向かう女先生」「周囲となじめなくて悩む若者」「結婚か仕事かで悩む女性社員と職場のハラスメントや親からのプレッシャー」「服のバーゲンセールに悩む女性」のようなテーマがしばしば取り上げられていた。主人公自身がそうなので「シングルマザー、シングルファーザー問題」などもしばしば題材であった。 最初の連載スタートがWikipediaで調べたところ1987年だから、バブルの時代と女性の雇用機会均等法がまだ社会になじんでいない頃だ。社会的テーマもそこにあったように思う。 最初のシリーズは27巻まで刊行されて、一度中断されていたのだが、今世紀に入ってから2008年以降、ほぼ年に1冊ペースでシリーズはリスタートして今に至る。今日取り上げたのはその最新刊ということになる。 世相は刻々移り変わっていることが、取り上げられるネタから読み取れる。例えば、知世ちゃん(主人公の女の子)のクラスメイトのお母さんが、キャリアウーマンの女性だったが、若い男の子と再婚して専業主夫になってみたりする。 ニートや引きこもりのような子どもが出てくることもあったり、キャリアウーマン同士のねたみが題材に取り上げられたりする。 変化していく現実の世界の世相を取り上げているのに、キャラクター自体はまったく年を取っていない。1987年の連載当初に小学校の中学年あたりとおぼしき知世ちゃんは、2020年を迎えようとしているのに今もまだ小学校の中学年を生きている。キャリアウーマンの先駆者だったであろう叔母さんは、今もまだ行き遅れた婚期を気にしつつ(昔ほどではないが)、バーゲンセールの服を選ぶ。 一方で、読書を楽しむ姿は描かれるが、スマホやタブレットは(今のところ)出てこない。そこは30年以上変わらない不思議の世界なのだ。 知世ちゃんはずっとファンタジーの世界の日本に暮らしている。彼女とお父さんの住む中古マンションのベランダはとても広く、毎日の水やりは今も続く。 これからも、まだ10年先も、きっと彼女は子どものままで日本の変化を見つめ続けていくのだろう。できれば、彼女のまなざしが、暮らしやすくて幸せのある日本の生活をたくさん取り扱ってくれるといいのだけれど。 昔のPapa Told Meを読まれていて、「新シリーズあったんだ!」と思われた方には絶対オススメします。そしてもちろんずっと未読だった方にも! 試し読み(新シリーズの各巻、第1話が全部無料で読める!) https://www.s-manga.net/search/search.html?seriesid=36084 Amazonで書籍購入 https://□ama□/2XGAuCNKindleで電子書籍購入 https://□ama□/2XtO3oR 関連 投稿ナビゲーション 内田百閒のおかしみが淡々とした画風で描かれるおかしみ~オススメマンガ「ヒャッケンマワリ」~住まない部屋の間取りはなぜ楽しいのか~「間取りはどれにする?」を読む~