心地よい音楽が「見える」!~「バジーノイズ」 – 8th FEB.

心地よい音楽が「見える」!~「バジーノイズ」

まさか完結後何年も経ってから、このマンガを一気読みするとは思わなかった。

最初から気にはなっていた。1巻はほとんど悩まず購入していたし、続刊も発売時点で買いそろえていた。全5巻がいつも手元に置かれたままだった。しかしずっと手つかずであった。

今年に入ってから、なぜかふと1巻を読み始めた。何年も積ん読状態になっていたのが、気がつけば一気に読み終えてしまった。分からないものだ。

そしてその「遅れてきた感動」をシェアすべく、コミックレビューしてみたいと思う。

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本作を、音楽マンガといってしまえばそれまでだ。ひとりで自室で作曲やアレンジを楽しんでいた男子が、とあるきっかけで、とある女子と出会うことから話は動き始める。

バンドの青春マンガといえば汗くささを感じてしまうが、このマンガはちょっと違う。むしろクールなままに話は進み始め、ほとんど汗を感じさせずに話は終わりまですすむ。

登場する女子と主人公の男子が夜を共にするシーンも紙幅を重ねることなく、あっさり描かれてしまったりする。

しかし、音楽のセンスを認められて、神戸から東京に出てきたり、また戻ってきたりする中で、世界は広がり、ふたりの関係も深化していく。

「バジーノイズ」のおもしろさはそうした淡々とした流れだ。淡々としても、飽きが来るわけではない。途中でメンバーがケンカもするのだがこれまた怒鳴り声もあまり感じさせない。不思議な感覚を読者にもたらす。


そして、音楽を「見える」形で描く巧みさもまた、本作のすごさだ。そもそも音を絵にするのは至難の業だ。キャラクターの表情をもって、あるいは聴衆の反応をもって、たくさんの作家が音楽を絵にしてきた。

ここで描かれている音楽は「曲線」と「泡(たくさんの円)」だ。

これが驚くほどに、主人公のあらわす音楽を形にしていて、音が聞こえるわけでもないのに、音の雰囲気が伝わってくる。穏やかで心地の良いサウンドすら感じられる。

この曲線と泡の描写を見るだけでも、本作をめくる価値がある、といってもいいかもしれない。

そしてもうひとつ、効果的だったのは関西弁の会話だ。神戸に住んでいるとおぼしき主人公とストーリーを動かす女の子が関西弁で会話をする。東京に行けば、関西弁が異邦人であることを認識させる。

関西弁を描くとき、たいていはがさつさの代名詞のように用いられがちだ。不良であったり、行儀の悪い子どもの会話であったりする。お笑い芸人のイメージもあるだろう。しかし、普通に暮らす関西人も関西弁を話すし、穏やかな関西人もたくさんいる。

そういう描写もこの作品をちょっとユニークなものとしてくれている。

音楽マンガはいろいろあって、オススメをお持ちの方も多いと思うが、文化系の雰囲気が感じられる本作を私はちょっと推してみたい。一読の価値があると思う。
オススメです。

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