自販機前で起こる様々な人間模様の連作が楽しい~「自動販売機の前で」 – 8th FEB.

自販機前で起こる様々な人間模様の連作が楽しい~「自動販売機の前で」

連作短編集が好きだ。短編の読み切りに終わらせず、シチュエーションや人物を引き継いで次々と話がつながっていくようなもの。

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少女漫画家の谷川史子さんはそうした連作が得意な作家だ。主人公Aのエピソード1→エピソード1の脇役Bが主人公になったエピソード2→エピソード2の脇役Cが主人公になったエピソード3、のような形で恋愛ものの連作を作るのがとてもうまくて大好きだった。特に「各駅停車」は名作だったと思う。

最近だと「踏切時間」(著:里好)という作品は、「踏切前」というシチュエーションだけでの連作を展開していて楽しませてくれた。こちらは「場所」を固定している面白さがあって、人物は全取っ替えしてもいい。

ただ、連作短編ということは同じ登場人物のネタは原則として一回切りになる。谷川史子さんのほうだと基本的に1巻で終わる贅沢なシリーズだった。キャラクターのエピソードが一巡したらそこで終わらせてしまうのだ。

「踏切時間」のほうは続刊が出るたび、何度か再登場するキャラクターが出てくる。それはそれで「あのカップル、どう進展した?」みたいな楽しみもあるのだが、一方で連作短編の新鮮さは薄れてしまうという諸刃の剣でもある。

さて今回の「自動販売機の前で」は「自販機」というシチュエーションを活用した連作短編集だ。これがなかなか初々しくて良かったので紹介したい。

最初の「自販機」は、JR東海道線平塚駅、1、2番線ホームにある自動販売機。最初のカップルが自動販売機の前という舞台と、清涼飲料水を小道具にストーリーを展開する。

連作短編は、新人漫画家の腕の見せ所であり、またスキルアップのチャンスでもある。じきに長期連載をもたせてもらうようになると、連作短編にはなかなか戻ってこなくなる。本作もYGマンガ賞受賞の作家が腕を振るっているのだが、絵柄や台詞に垣間見える初々しさがなかなかいい。

おそらく作者の書きやすい年代ということだろうが、高校生くらいを登場人物の中心にしているのも、自販機前の青春という感じがしてさわやかだ。

現在、1巻が(1)という数字つきで発売されているということは続刊も期待してよさそうだ。ストーリーとしても、「違う場所に立つ自動販売機」を舞台にしはじめたり、展開を広げる要素もあって、まだまだ楽しめそうな感じがする。

いつかは、この連作短編も一区切りを迎えて、作者は長期連載にチャレンジしていくことになるのだろう。そうしたら、しばらくは連作短編とはいかなくなるのだろうから、今はこの連作短編を楽しみにしてみたい。第1巻、オススメです。

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