フルメタル・パニック! せまるニック・オブ・タイム – 8th FEB.

フルメタル・パニック! せまるニック・オブ・タイム

せまるニック・オブ・タイム (富士見ファンタジア文庫 92-20 フルメタル・パニック)
賀東 招二
富士見書房 (2008/02/20)
売り上げランキング: 1

 

お気に入りの作家であって、読めば満足できること請け合いの本が一冊
手元にあったとする。でも仕事が忙しくて、すぐに読む余裕はない。
そうして迎えた週末の土曜日。
昨夜(正確には今朝方)に仕事は上がり、ひとまずこの週末は余裕がある。
家族は皆出かけており夕方まではひとりきり。そんな状況が到来する。

10時過ぎに目が覚めたものの、まだ頭がシャープな状態ではないのだから
すぐ本を手に取るのはいかにももったいない。
ゆっくり風呂につかり(昨夜は仕事を仕上げて寝てしまったので)、
軽く食事をして、皿洗いや洗濯など家事をこなし、
読書に入るためのリズムを整えていく。

少しずつ気持ちがそわそわしてくる。早く読みたい。
恋人とのデートを控えた少年の気分になってくる。

一気に読み切ってしまいたいという気持ちが高まったら
MP3プレイヤーを片手に外に出かける。
近くにあるタリーズに入って、ソファ席が空いていることを確認して
トール・ラテを注文。ノイズキャンセリングヘッドフォンのスイッチを入れ
クラッシックのMP3ファイルから再生をスタートする。
ソファーにもたれて自分なりのリラックスポジションを作る。

待ちかねた文庫本を数ページ開いたころには周囲の雑音は消され、
自分と文庫本の世界が広がる。
途中、ロイヤルミルクティーを頼んで、3時間かけて一気に読み切る。
読み終わった頃には心地よい疲労感が身体を満たし、
すっかり日が暮れていたことに気づかされる。

   ■   ■

1998年の夏にスタートした「フルメタル・パニック!」シリーズも、
早くも10年になろうとしている。
ついに、次の長編でおそらく完結するところまでやってきた。
読者の求めるレベルも高まる中で、納得してもらうだけの
答えを出さなければならないクライマックス前の一冊。
そして、この10年間をかけて向上してきた作者の筆力・構成力は
それに応えるだけの一冊を提示してくれた。

ひとつひとつのピースが「そんなところに?」という場所にハマり、
ひとつひとつの疑問が「ああ、なるほど」という明かされ方をしていく。
ある程度のグランド・フィナーレもこちらに期待させつつも、
本当にそうなるのだろうかという不安も抱かせる終わり方だった。

たぶん、最終巻においても、ぼくの予想を半歩斜めに外した形で
鮮やかに裏切り、うならせてくれるエンディングが待っていることだろう。

作者は「いい仕事」してるなあと思わずにいられないし、
パソコンの前に自分を追い込んでいる姿が想像できるようだ。
自分ももっと自分を追い込んで「いい仕事」しなくてはなあと
思わせる一冊であり、濃密な3時間を堪能することができた一冊だった。

読む前から、読めば満足できることが分かっている一冊があって、
それを数日待って、自分をじらしながら読める快楽は何物にも代え難い。
日本に暮らして、オタク的趣味を持つことの幸福はここにあると思う。